プロボクシング界の改善すべき点

 村田諒太WBAミドル級の世界チャンピオン決定戦で敗れた。プロ転向後初の黒星である。試合内容は明らかに優勢だっただけに非常に残念な結果だし、村田本人の落胆も大きいと思う。村田は試合直後は判定結果に茫然としていたが、その後は判定に不満を言うこともなく冷静に振舞っていたのが印象的だった。試合には負けたが村田は実力は上であることを証明し、試合後の態度で一流のスポーツマンとしての誇りを見せ男をあげたと感じた。疑惑の判定でチャンピオンになり、信じがたいマッチメークと判定で防衛を続けた某氏とはえらい違いである。

 村田の試合の判定については素人のわたしがとやかく言うことはないのだが、元WBAミドル級チャンピオンの竹原慎二氏が語っていたことには全く同意する。彼の発言の主旨は'判定は予想外だが、村田は手数が少なすぎた。最後まで倒す気持ちでいってほしかった'ということだ。わたしは村田は強い意志をもって倒しにいったのだとは思うが、もう少しがむしゃらにリスクを取って攻めるべきだったし、そうすれば結果は違っただろうと感じていた。

 わたしたち外野は、もう一度チャレンジすればきっと勝てるなどと考えてしまうが、村田の「負けたらもう一回頑張ると簡単に言えるかというと、正直そんな簡単な日々を歩んできたつもりはない」という言葉を聞くと沈黙せざるを得ない。彼がプロ転向後に背負ってきたものの大きさを感じてしまうからだ。ただ村田はエンダムより明らかに強かったと誰もが感じたとしか言えない。

 プロボクシングの世界は判定の不可解さだけではなく改善すべき点が沢山あると思う。2015年12月30日の当ブログでは八重樫東が3階級制覇したことを受け、ボクシング(特に軽量級)の階級設定に疑問を示した。昔はフライ級とバンタム級しかなかったところに、ミニマム、ライトフライ、フライ、スーパーフライ、バンタム、スーパーバンタムの6階級が作られた。これでは3階級制覇と言っても旧フライ級内での体重の微妙な差の間で勝ったに過ぎないのではないかと言ったのだ。しかもボクシング団体にはWBA,WBC,IBF,WBOとおもな国際団体でも4つあるのだ。それぞれの団体で各階級に世界チャンピオンがいるのだから、本当に一番強いのはだれなのかさっぱり分からない。だから村田は今回WBAで勝てなくても他にも狙える世界タイトルはあるのだ。世界チャンピオンが安売りされているのが現状だ。(もっとも後述するようにミドル級はそう簡単ではない)

 ある団体の世界チャンピオンが他の団体の世界チャンピオンと統一戦を行うことがある。この場合勝った選手はスーパーチャンピオンになり、その団体の世界チャンピオンは空席になるのでまた決定戦が行われる。その結果その団体ではスーパーチャンピオンと世界チャンピオンの二人が存在することになる。要するに世界チャンピオンになりたい人とチャンピオンの資格を与えて金を稼ぎたい人などがゴチャゴチャといて、世界チャンピオンが粗製乱造されることになっている。スーパーチャンピオンを真のチャンピオンすればよいと思うのだが中々そうはいかない。今回村田が挑戦したWBAミドル級にはスーパーチャンピオンがいてその選手はWBC,IBFの世界チャンピオンでもある。ゲンナディ・ゴロフキンというカザフスタン出身のボクサーでアテネ五輪で銀メダルを取ったあとでプロ入りした無敵のボクサーである(プロでは37戦して無敗、33KO)。だから彼に勝ったら本当に世界一だと言えるのだ。村田は彼に挑戦することもできるのだが、勝つのは難しいだろうというのが大方の見方だ。それでも今回の試合結果で落胆するより、いずれ彼に勝つことを目指せばいいと思う。彼だってピークを過ぎて力は落ち始めている。

 ミドル級のようにとても強い選手がいてスーパーチャンピオンになっていれば誰が一番強いか分かりやすい。しかし先にあげた軽量級のようにやたらチャンピオンがいると(日本人もかなりいる)誰が強いのかまるで分からない。サッカーや野球、ゴルフでも世界には多くの団体がありそれぞれ一位の選手やチームがある。しかしこうした競技はどの団体が一番強いかがはっきりしているか、統一して世界一を争う仕組みがある。野球は米国が明らかに一番強いし、サッカーにはワールドカップがあり、ゴルフは米国のレベルが高いしメジャー競技もある。また統一した世界ランキングがある競技も多い。だから各競技で今はどの選手が一番強いか明白なのだ。ボクシングはそこがはっきりしない上に、判定に疑惑がもたれるケースも多い。このままではきっとファンに飽きられてしまう。ファンのわたしでも日本の軽量級で誰が一番強いのか戦って決めて欲しいと感じている。だから階級の見直しをするとともに、各団体の世界チャンピオンが年に一度戦って真の世界チャンピオンを決めるトーナメントのようなものがあってもいいと思う。階級にもよるが優勝者には賞金を2-3億円くらいあげても元は取れるはずだ。村田の試合はそんなことを考えさせた。